大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和38年(ネ)615号 判決

理由

(前略)

控訴人は服部保夫は控訴会社を代表する権限は勿論のこと金員借入についてもその権限がなく、甲第一ないし三号証は服部が代表取締役の印章を冒用して作成した偽造文書であると主張し、(証拠)を綜合すると、控訴会社は訴外京聯自動車株式会社の子会社であつて、昭和二九年以来親会社の社長である川本直水が代表取締役を兼ね、服部保夫は昭和二八年二月以降常務取締役であるが、控訴会社の代表取締役ではないこと、昭和三二年一〇月以降控訴会社の資金は全部親会社で面倒をみることとなり、控訴会社において資金操作をなすことを禁止され、特に資金借入の必要あるときは、親会社の社長または専務取締役川本保の承認を受けることとなつていたこと、川本直水は平素控訴会社に出勤することなく、毎月一回(繁忙期は一〇日に一回)服部が親会社に赴き川本直水または川本保に営業報告をなすと共に支払明細書の決済を受け、決裁を得た支払分についてのみ、控訴会社名義の手形を振出すことが許されていたこと、昭和三二年一〇月以降親会社の市場某が控訴会社に派遣され、同人が控訴会社の社長印を保管していたことが認められるから、服部は川本直水または川本保の承認なくして控訴会社のため手形を振出しあるいは資金を借入れる権限がなかつたものというべく、従つてまた反証のない限り控訴会社の債務について準消費貸借をなす権限も有しなかつたものと認むべきである。そして前記証拠よると服部は控訴会社のため被控訴人より金六〇万円を借受け、あるいは控訴人の被控訴人に対する債務二〇万円を目的として準消費貸借をなすについて川本直水あるいは川本保の承認を受けていなかつたことが明らかであるから、服部が被控訴人との間になした前記各行為は権限のない者がなした行為といわなければならない。

被控訴人は服部保夫は控訴会社の常務取締役であつて、被控訴人は同人に控訴会社を代表する権限があると信じたので服部のなした前記金員借入、準消費貸借については商法第二六二号の適用があり、控訴人は服部のなした行為についてその責を免れることができないと主張し、服部保夫が控訴会社の常務取締役であつたことは当事者間に争がないから、控訴会社は服部が常務取締役なる名称を使用することを許諾していたものと推認すべく、前記認定の控訴会社代表取締役川本直水は平素控訴会社に出勤しなかつた事実と(証拠)によつて認められる服部は控訴会社営業所において常務取締役なる札を掲げた部屋において執務し、控訴会社営業所における最上位の者であつて、常務取締役なる肩書を付した名刺を被控訴人に交付した事実に(証拠)を綜合すると、被控訴人は控訴会社の社長が川本直水であることは知つていたが、服部保夫もまた常務取締役として控訴会社を代表する権限を有するものと信じ、斯く信ずるについて過失がなかつたものといわなければならないから、控訴人は商法第二六二条により服部が被控訴人となした前記行為についてその責に任じなければならない。

控訴人は甲第一ないし三号証に「取締役社長川本直水」なる記載があり、甲第二、三号証には右記載の外に「借用人服部保夫」なる記載があることから考えると、仮令服部が常務取締役であつたとしても、代表権を有しないことは一目瞭然であり、被控訴人の善意は認むべくもないと主張し、甲第一ないし三号証に控訴人主張の如き記載のあることは、右甲号各証により明らかであるけれども、被控訴人は控訴会社の社長である川本直水のみならず、常務取締役である服部保夫も亦控訴会社を代表する権限を有するものと信じたこと前記のとおりであつて、前記認定の事情の下においては、甲第一ないし三号証に控訴人主張の如き記載があるからといつて、この事実のみから、被控訴人が悪意であるとすることはできない。

(後略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例